ピーター・ウォーカー 豊田市美術館 見えない庭 

8月 15th, 2016 by Taguchi Leave a reply »

「専門家が選ぶ建物が魅力的な美術館・ベスト10」
一位は豊島美術館、二位は豊田市美術館…。
電子版の日経新聞で読んだ記事にはこう載っていました。

私が15年前ほどに、豊田市美術館は訪れたことを思い出し、その記事に豊田市美術館は「庭園と一体、優美な景観」と書いてありました。

© 豊田市美術館

© 豊田市美術館


私がこの美術館に訪れた時、立地条件、建築、そしてランドスケープの調和のとれた美を感じたことを思い出します。当時、青春18切符で九州から東京にかけてランドスケープや建築を見て回っていた時に、米国で有名なピーター・ウォーカーの作品を見てみたいと思い、ここに訪れました。ここの美術館の素晴らしさは、七州城の城跡の高台に位置した立地条件です。昔の人は、やはり景観の素晴らしい位置を知っており、その場所にお城を建てたのでしょう。そして建築と庭、特に水景と建築の一体化した内と外の関係は、まさに美術館にはピッタリの空間です。茶室「童子苑」があり、昔が城跡であったことを忍ぶことができるのも、とても良いです。
PWP事務所における豊田市美術館のモデル

ピーター・ウォーカーPWP事務所における豊田市美術館のモデル


この建築は、のちにニューヨークの近代美術館を設計した谷口吉生氏、ランドスケープはニューヨークのグラウンドゼロのランドスケープを設計したピーター・ウォーカーと巨匠のコラボレーションになっていますので、ぜひ見に行くのもよいと思います。

さて、このことについて書いたのは、「見えない庭」というピーター・ウォーカーとメラニー・サイモの米国の近代ランドスケープの歴史の本を読んだからです。学生の頃は、この本のランドスケープの歴史に登場する人物に、あまりピンと来るものが無かったのですが、実務をしていろいろな分野や業界の方に関わると、このような近代史を振り返るのも良いものだと思いました。
ここには、セントラルパークのオルムステッドに始まり、ロバート・ブール・マルクス、ルイス・バラガン、イサム・ノグチのアートとランドスケープ、そしてトーマス・チャーチのモダン・ランドスケープへの流れを読み取ることができます。これらは、後にEDAW(現AECOM)の創始者の一人であるガレット・エクボの時代から、ランドスケープ計画の複雑化と近代化により、社会的に重要な役割を担うようになったようです。
エクボは環境のデザインを行う二つの戦略にはこう提示している。
「第一に、協同することを求める人間の基本的な本能を強化すること。それなくしては社会が存続できない。第二に、プランナーやデザイナーが彼らの努力の成果を認識させることである。成果とは、壮大な空間や美しく囲い込まれた場所でなく、その中にうちとけ、成長し、発展する人びとのことである。」(p.116)
きっと、社会の複雑な都市問題を解くには、コラボレーションの大切さが必要であることをエクボが気づいたのだと私は思いました。

この本には、私が好きなローレンス・ハルプリンから、ダン・カイリー、ヒデオ・ササキ、更には組織系事務所のSWAまでの歴史が書かれています。いくつか、私が気にいった部分を以下にメモ

として残しておきます。

「教えるということは、常に他の形で学ぶことを意味している」ピーター・ウォカー(VIII)
「自然は姿と形の限りない表出である」ヘンリームーア (p.156)
「マルクスは、絵画の修行のかたわら、植物学者に師事していた。・・・「芸術に境界はありません。私たちは同じ言語でものを言っているのです。」ロバート・ブール・マルクス(p.52)
「私は自然の言葉を、絶対の自由と野生の言葉をしゃぺりたい。地域社会の構成員としての単なる市民の自由や文化ではなく、私たちが、生き物や自然の一部であるとみなすためにも」ソロー(p.164)
「ランドスケープアーキテクトを建築家や土木技術者と区別するために、自然科学をその基礎に捉えるということ、ランドスケープアーキテクトがいかなる職能であるかを大衆に知らせること、ビジネスとしての実務の手法を改善することが含まれていた。」ホワイトの戦略(p.195)
「実務と教育のユニークな共生とでもいえるものであった」ヒデオ・ササキの教えたこと(p.200)
「ランドスケープアーキテクトは都市計画の最前線に立たなければなたらない。お仕着せの後についていくのではなく、先頭に立ってリードしていくのだ。」ランドスケープ・アーキテクチャー誌の編集者クレディ・クレイ(p.210)
「最高の経験と、明晰で情熱にあふれる若い頭脳のバランスをとること」ササキの大学と事務所における目標(p.214)
「自然の本質を芸術として表現し、…それによって都市を人道的に創造する芸術家である。」マクハーグのランドスケープアーキテクトの提唱(p.236)
「私は、芸術と人間と環境の観点から庭園を理解している。」マクハーグ(p.250)
「環境のあり方とプラニングの社会的な目的を認識し、それらの理解に基づいて、意味のある形態、人間と生物の健康と幸福に貢献する形態を生み出すデザイナー」(p.255)

以前に、ルイジアナ大学の教授と生徒と訪れたピーター・ウォーカーPWPの事務所の写真です。

PWP officeのエントランス

PWP officeのエントランス

PWP-オフィス内の様子(2004年)

PWP-オフィス内の様子(2004年)

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2 comments

  1. taksi より:

    田口様

    初めてコメントさせていただきます。
    ランドスケープの職について一年目となる社会人です。
    ネットで記事をたどる内にこのブログまでたどり着きました。

    私は日本の大学で建築の教育を受け、大学院でランドスケープを学んできました。
    あまり周りにランドスケープを専攻している友人が少なかったため情報を交換する機会が少ない環境にいたと思います。
    このブログに書かれていることが学生の時、また今の自分が知りたいことにとてもマッチしており感激してコメント書かせていただきました。

    大変お忙しい中での更新かと思いますが、これからも楽しみにブログを拝見させていただきたいと思います。

  2. Taguchi より:

    ブログを読んで頂き有難うございます。これからはランドスケープの教育だけではなく、ランドスケープアーキテクトの実践に役に立つ内容をブログでシェア出来たらと思います。よろしくお願いいたします。

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